●〔安倍に投票した自民党員はわずか3割だけ〕
今回の総裁選では予想どおり安倍が3選を果たしました。安倍と身近に接している議員が投じる「議員票」では、自己保身から不本意にも安倍に投票したという議員が多かったに違いありません。実際、「ほかを支持するところは干す・冷遇する」などといった安倍周辺による恫喝・圧力などもあり、議員票では結果的に、安倍(329票)、石破(73票)であり、安倍の圧勝だったわけです。それに対して、より正直な結果が出やすいのは、安倍とは距離があるところにいる党員が行なう「党員・党友票」です。その意味でも、どちらかというと党員・党友票のほうに重みがあるともいえるわけですが、今回の総裁選では結果的に安倍(224票)、石破(181票)と僅差でした。パーセンテージにすると、「55%」 : 「45%」になるわけです。
これを見ただけでもすでに僅差であり、約半数からしか安倍は支持されていないことになるわけです。が、この数字に投票率やその他の要因を加味すると、安倍は実質的に〝30%〟かそれ以下の自民党員からしか支持されていないことがわかるのです。その旨について解説している日刊ゲンダイの記事がありますので、それをそのまま下に引用します。(ベージュで示した部分は説明しているところ、ピンクで示した部分は要点です。色付けは私がしました。)
20日の自民党総裁選で、安倍首相が獲得した地方票の数字に注目が集まっている。
全国の党員・党友が投票する地方票(405票)のうち、安倍首相は55.3%にあたる224票を獲得し、目標ラインとしていた「55%」をギリギリ死守。地方に強いとされる石破元幹事長が2012年の総裁選で獲得した地方票が55%だったことから設定された数値だが、5人が立候補した中で55%を集めた石破氏とは事情が違う。
「一騎打ちで現職が半分ちょっとしか取れないなんて、党員からの不人気が浮き彫りになった。今回、党員の投票率が61.74%でした。そのうちの55%だから、党員全体の3割からしか支持されなかった計算です」(自民党ベテラン職員)
■「ひとりで大量投票しているケースもある」
自民党の規程によれば、党員票の投票資格を持つのは、「20歳以上で、前年まで2年連続で原則年額4000円の党費を納めた人」。今回は特例で党員資格が「18歳以上」に引き下げられ、党費も17年に納めていればOKとなった。これで投票資格のある党員がおよそ16万人増え、支援団体の会員である党友と合わせて、総裁選の有権者は約104万人だった。
党員は総裁選前日までに主に専用はがきで投票。はがきは指定の郵便局に留め置かれ、選挙当日に都道府県連が開票することになっている。
「総裁選は公職選挙法の対象外だから何でもありだし、党員の投開票もいい加減なものです。“犬猫党員”という言葉もあるくらいで、自分で会費を払って知人を勝手に党員にしてしまうことは昔からよくある。安倍政権では国会議員に党員獲得の厳しいノルマを課しているから、なおさらです。しかし、国会議員の8割が安倍支持という総裁選で、陣営が誓約書まで取って必死に締め付け、組織的に投票させても、55%しか取れなかった。党費を払っていながら投票しなかった一般党員の多くは、安倍首相を支持していないと考えるのが普通です。そうなると、厳密に見れば、本当に党員票の55%を取ったのか怪しいものです。投票用紙をかき集めて、ひとりで大量投票しているケースもあるでしょう。都道府県連の開票結果はメールなどで党本部に送られるそうですが、数え間違いや、数字の入力ミスがあっても、国政選挙のようなチェックは入りようがありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
安倍の得票率が、陣営が設定した勝敗ラインの55%ぴったりだったのは、なんとも絶妙だ。かくて党員の約3割、わずか35万人が選んだ総裁が国のトップに君臨する。
(引用元 : 日刊ゲンダイ「安倍首相が総裁選で獲得 地方票『55%』の怪しいカラクリ」 2018.9.22)
●〔満面の笑みの石破、顔面蒼白の甘利〕
以上のよう結果であったためか、これにはやはり安倍周辺も深刻に受け止めたようです。と同時に石破は逆に自信をもったようです。そのことを報じる「HARBOR BUSINESS online」の記事がありますので、その一部を下に引用します。(ベージュで示した部分は要点です。色付けは私がしました。)
茶番劇に終わるはずが大どんでん返しとでもいうべきことか。安倍晋三・総裁が9月20日に三選を果たした自民党・総裁選のことである。
安倍晋三・総裁が任期2期6年という自民党総裁の任期を3期に延長させ、3選を目指したこの闘いは、現職に石破茂・元幹事長がひとり挑むという構図になり、投開票日のはるか以前から結果は決まっていた。
通常国会が閉会して総裁選モードが始まると、安倍氏を石破派以外の派閥が続々と支持を表明。竹下派だけが参院議員は石破支持にまわり、派としては自主投票となったものの、竹下派衆院議員の大多数は安倍再選支持に回った。安倍氏が総裁選出馬宣言をしてから行われた総決起集会には85%の国会議員(代理出席を含む)が参加した。
「石破氏が次の総裁選に出られないくらいに徹底的に惨敗させる」
安倍氏がそのような思いを秘めていることを何人もの側近が口にした。再選でなく、石破氏の政治生命を絶たせるほどの圧倒的勝利が安倍陣営の目標だった。
そして20日、国会議員による一時間近くの投票が済んで、20分ほどの集計が終わり、総裁選の選挙管理委員会結果が結果を発表した。すると記者から、かすかなどよめきが起きた。
議員票は安倍氏329票、石破氏73票(無効3票)と大差がついたが、党員・党友票の得票数に応じてドント方式で比例配分される地方票は安倍氏224票、石破氏181票と僅差。
パーセンテージにすると党員・党友票は55%:45%だ。合計で安倍氏553票、石破氏254票と首相のダブルスコアを超える圧勝だったが、その場にいた議員・記者は誰もが思ったであろう。
「石破氏は想像以上に大善戦した」と。
想定外と思った人もいよう。
(中略)
石破茂氏は総裁選特設サイトで「47都道府県のみなさまへ」という動画も公開し、話題になった。石破氏が47都道府県についてそれぞれ5~8分、原稿も読まず、自身の体験したエピソードや思い入りを織り交ぜ語るもので、計47本の動画が公開された。選対スタッフは準備も入れて製作に30時間を要したと語った。ラサール石井さんが絶賛するなど、各方面で話題になった。
石破派議員は「こちらには組織も議員もいない。地道に有権者に訴えていくしかない」と戦略を語ったものだった。
石破陣営は主に党員・党友票を狙い、「20%台だったら次はない。30%だったら、まあまあ。40%を超えたら実質勝利だ」(石破派幹部)というように、40%の得票を目指していたのだ。はじめは手応えが感じられなかったが、投票日が近づくにつれ、支持率が伸びていき、演説会場にも聴衆が増えていき、陣営は手応えを感じているようだった。
そして、蓋を開けたら45%の得票という、想像以上の結果。さらに、19日までに石破支持を表明した議員は50名弱。議員票73票という結果は、20名近く“隠れ石破系”がいることを示した。 広報を担当した平将明・衆院議員は会場を出るときに満面の笑みを浮かべていた。それは石破茂氏も同様だった。記者のぶら下がり取材を受けた石破氏は終始、笑顔を浮かべ、結果について
「未来永劫、続く政権はない。今回のありがたい結果に満足することなく、改めるべき点は改め、国民の思いに反することがないようさらに努めていきたい」
と語った。総裁選後に集まった石破系グループの会合は祝勝ムードが漂っていたという。
一方、3選を果たした安倍晋三・総裁も支持議員を集めて会合を持ったが、司令塔だった甘利明・選対事務総長は顔面蒼白。石破氏が安倍氏より票を上回った県選出の議員は苦虫を噛み潰したような表情だったという。安倍氏は笑みを浮かべていたが、陣営は沈痛な面持ちだった。
全国紙記者は語る。
「石破氏の政治生命を絶つどころか、自民党員・党友からすら、安倍さんへの不信が強く、さして支持されていないことが明らかになってしまった。全面的に信任を得られたとはとうてい言い難く、安倍一強の脆さが露呈してしまった。陣営が諸手を挙げて喜べないのは当然ですよ。10月1日にも内閣改造・党役員人事刷新が行われる予定ですが、安倍さんの選対内では猟官合戦が激しかったですから、求心力を取り戻せるか。人事によって躓いてしまう可能性もあります」
(後略)
(引用 : HARBOR BUSINESS online「自民党総裁選、満面の笑みの石破氏、顔面蒼白の甘利氏、無表情の進次郎氏」 2018.9.21)
●〔石破は敗れたが立候補は正解だった〕
以上ですが、日刊ゲンダイの記事の最後のほうにも書かれていたように、党員の約3割、わずか35万人が選んだ総裁が国のトップに君臨することになるわけです。前回の私のブログ(「安倍街頭演説会場の光景が異常・異様・哀れ」)でも述べたとおり、そもそも国民からも安倍はほとんど支持されていません。つまり、多くの国民から望まれていない総裁が国のトップに君臨し、これからも、これまでどおり独裁的手法で、望まれていない政治を行なっていくわけです。これがいかに日本にとって損失かということなのです。何度もいうように、これからも民主主義をはじめいろいろなものが壊され、失われていくことは必至だと思います。
ただ、そんななか一筋の光明はやはりなんといっても、石破の善戦ですね。党員票で安倍と僅差だったこともさることながら、短い期間ながら選挙期間中に公開討論会などで安倍の欺瞞を多くの国民のまえにさらけ出すことに成功したと思います。これらは今後生きるでしょうし、安倍の暴走をいくらか抑制する方向に向かうものと思います。その意味でも石破は敗れはしたものの、非常に有意義であったし、国民のため日本のためにも総裁選に出てまさに正解だったと思います。